映画館のない町に1日だけの映画館を〜はまだ映画館のドキュメンタリー

映画館のない町に1日だけの映画館を〜はまだ映画館のドキュメンタリー

衰退が始まって初めてわかるメディアの本質

 それまで当たり前のように存在していたものが当たり前でなくなった時、突然、その良さが浮き彫りになることがある。例えば紙の本がそうだ。電子書籍に比べてやはり紙の本はいいと皆が言う。私もそう思う。個々の本が持っている雰囲気、風合い、存在感……。紙メディアの利点と美点をさまざまな人達が、さまざまな立場から訴えている。しかし、紙の良さがなぜこれほどまでに明らかになったのかと言えば、それはとりもなおさず、我々がもう紙中心の世界に生きていないからだ。紙メディアが主流の世界に住んでいる時、我々はその良さを明確に自覚することはできない。

映画館への入場者数は過去50年で約10分の1に

 紙メディアの衰退よりもずっと以前に、娯楽の主役から引き摺り下ろされたメディアに映画がある。もちろん今でも映画は制作され続けているし、テレビなどで話題になる作品もあるし、大手のシネコンなどは活況を呈しているように見える。しかし、それは限られた大都市部での話だ。日本国内におけるスクリーンの数は60年代前半のピーク時には約7,500、それが2013年には半分以下の約3,300。映画館への入場者数は50年代後半のピーク時には11億人超、2013年には約10分の1の1.5億人となっている。入場者数の激減に比べてスクリーンの数が半減しかしていないのは、1つの施設に複数のスクリーンを持つシネコンが登場したからである。つまり、映画館の数自体は激減しているのだ。

映画館で映画を観たことがない子供達

 当然のことながらこの傾向は地方都市に行けば行くほど顕著であり、もはや「ひとつも映画館がなくなってしまった街」というのも珍しくない。島根県浜田市もそんな街のひとつであり、かつては市内に6軒の映画館があったものの、2003年に最後の劇場が閉館して以降、映画を上映する施設は1軒もなくなってしまった。従って、地元で生まれ育った子供達の多くは映画館で映画を観たことがない……。

映画とは他人と時空を共有する映像体験である

 そんな浜田市に1日だけ映画館を復活させようというプロジェクトが地元の有志によって立ち上がった。そして、4月27日、浜田市後野町の石見公民館後野分館が1日だけの映画館になった。この映像はその模様を収めた短いドキュメンタリーである。言うまでもなく、映画とは暗闇という特殊な場所での映像体験であり、見ず知らずの人と同じ場所で同じ時間を過ごす共有体験だ。これが、映画の衰退後に明らかになった映画の根源性である。スクリーンに見入る街の人達の幸せそうな顔は、かつて映画が全盛だった時代にはわからなかった映画の本質を改めて理解させてくれる。